大阪市港区の地域運営の「仕組み」を作られた前港区長の田端尚伸氏に、前回に引き続き、お話を伺います。
インタビュー
Q3 中間支援組織「まちづくりセンター」は、地活の自律的な運営を支援するために設立され
ました。まちセンをどのように捉え、活用されたのですか?
まちセンには、地活の運営支援はもちろんですが、区と連携して各地域の課題解決のサポートにあたっていただきたい、地活の意味や目的、会計の明確化の必要性などを地域に理解していただくのは区役所の責任であると申し上げました。
地域課題については、まず区とまちセンが情報を共有して、共通の認識を持つ必要があります。
区役所5階の協働まちづくり推進課の隣にまちセンの席を設け、フラットに話し合える環境を作りました。もちろん、毎日の朝礼にも参加していただきました。
地活の形成期では、特に、地域の会長の地活に対する理解度、受け止め方の違いが、各地域の活動に大きく影響を与え、足並みが揃いませんでした。
たとえば、ある地域の会長は、区民まつりへの地活の模擬店の出店に一貫して否定的で、地域の女性の方が会長に直談判し、3年目にようやく出店されたと聞いています。
私は、まちセンには「地域に差が出てあたり前ですから、やる気のある地活はどんどん伸ばして下さい。地活の理解で立ち止まっている地域、どうしてもできない地域は、区役所がフォローします。そこは行政の仕事です」と伝えました。
防災や子育てなど関心のある分野は様々ですが、取り組みの意欲を持った地域をまちセンは思いっ切り伸ばしてくれました。
港区は1地域1小学校ということもあって地域愛が強く、他の地域のことが気になり、ライバル心がある一方で、よいところは学ぼうという気持ちも強くあります。
地域の防災訓練には、次回、あるいは次々回に訓練を予定する他地域の方が偵察に近い視察に来たりしています(笑)。
地活が形成されて約1年となる平成25年度の末に、例年実施している「防災フォーラム」に加えて「地活フォーラム」も開催しました。
フォーラムと称していますが、内容は実質的に各地活の自慢大会です。各地域の中堅、若手のプレーヤーがプレゼン、地域からは「応援団」が駆けつけて盛り上がりました。
地域愛とライバル心という区民柄を考えたら、自慢大会は地活の理解を進めていく特効薬になるよねと、金子さんとぴったりと認識を合わせたうえでの企画でした。
そして、新しい市政改革で地活が形成されて以降、全区で初めてNPO法人格を南市岡地域が取得したり、磯路地域がクラウドファンディングやお得意の模擬店を活用して地域の桜並木を保全する取り組みを始めたり、複数の地活が区の広報紙の配布事業を受託するなど、各地域の個性にあった様々な主体的な取り組みが生まれました。
これは、まさにまちセンが地域に寄り添い、地域の思いを汲んで、その地域の「強み」や「よいところ」を伸ばしてくれた結果だと思います。
さいごに
改めて思うのは、すべてのコミュニティ活動は福祉に通じるのでは、ということです。
もちつき大会や盆踊りなど様々な地域活動があります。楽しみながら顔の見える関係を広げ、蓄積していく、地域は気づかないうちに、自然な形でコミュニティというデータベースを作っているのではないでしょうか。
そのデータベースからのアウトプットが、高齢者の見守り活動や百歳体操になったり、子どもの虐待や困窮家庭が地域的な課題と気づけば、それをサポートしていこうという活動になっていくと思います。
もちろん、福祉については、法令に基づいて行政が責任を持って対応すべき分野があります。しかし、少子高齢化の中で日常的に様々な福祉的な課題が生活に近いところで生じています。
行政の分野に至らない段階で、あるいは至らないようにするために、地域のことを一番よく知っている地域が、行政からの客観的な情報やデータも参考にして、解決に向けた処方箋を考えて、地域のコミュニティを活用して取り組んでいく、そして小さくても成果が出れば、その喜びや達成感が次の活動につながっていく、ということが本当の意味での自律的な地域運営ではないかと思います。
地域が無理なく、楽しみながらコミュニティのデータベースを作っていくところに活躍するのがコミ協、そのデータベースを活用して課題の解決に取り組もうとする地活をサポートしていくのがまちセンだと思います。
大阪市が「様々な分野における地域課題の解決やまちづくりに取り組んでいくため」に、ある種唐突に地域に提案した地活という制度ですが、港区ではそれぞれの地域で、自律的なまちづくりの「仕組み」として正統に進化を続けているものと確信しています。(完)
取材・文:梶原千歳
イラスト:阿竹奈々子
【港区コミュニティを科学する②】4 まちセン
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