大阪でも先駆的な淀川区加島地域の「買い物支援事業」について、地域・企業・まちセンの3者にお話を伺いました。
左から、藤原さん・柏木さん(コープ)、大西会長、井川支援員
淀川区加島地域活動協議会 会長 大西継一さん 生活協同組合コープこうべ 店舗事業部 買い物支援担当 藤原太成さん 淀川区まちづくりセンター支援員 井川里香さん
淀川区加島 買い物支援事業
平成27年の国勢調査によると、淀川区の人口に占める65歳以上の住民は22.7%、加島地域に至っては24.9%に及んでいる。地域内に商店やスーパーも少なく、高齢者の買い物支援が課題となっていた。
平成30年4月、コープこうべによる「お試し販売会」が開かれ、5月に移動販売の拠点1ヵ所から「買い物支援事業」がスタートした。同年11月には拠点5ヵ所での移動販売が可能となった。
火曜日2ヵ所(加島・三津屋文化センター加島老人憩の家、市営加島中住宅) 金曜日3ヵ所(富光寺、市営加島南第2住宅、市営神崎橋住宅)
今では毎週50名ほどの利用があり、高齢者にとってなくてはならない移動販売となった。また、引きこもりがちな高齢者が外出し、ご近所さんたちと買い物しながら会話する機会であり、地域の“見守り”の場にもなっている。
大西会長 僕は「地域活動」を難しく考えてへん。足元にどんな問題があるのか見て聞いて、一つひとつ潰していこう。信念を持てばなんでもできると思ってる。
加島はスーパーが1軒しかなくて、買い物に不便な地域です。どうにか店へ行けても、たくさん買い物すると帰りが重い。足腰の弱い高齢者が不憫やなと思ってました。いつも頼りにしているまちセンの井川に「どないかならんか?」と相談しました。
井川支援員 買い物の不便をどうしたらいいか。まちセン元アドバイザーの奥河さんが現在エリアマネジメントを行っている浜甲子園団地でコープこうべの移動販売をやっていたことを思い出しました。
そこで、出張販売や移動販売ができないか、近くのお店や企業へ当たりました。飛込み営業のように一軒ずつ電話で問い合わせましたが、どこも「やってないんです」とのお返事。
コープこうべも大阪市内は回られていないとのことでしたが、「今後、やる予定はありませんか?」とふと聞いてみたら、担当の方へ繋いでくれたのです!
藤原さん コープこうべは大型車両(2t車)で移動店舗を展開していましたが、大阪の都市部では駐車スペースなどの問題で大型車両の展開が難しいことから小型車両を導入し、豊中市にあるコープ桜塚店を拠点に、片道30分圏内で事業を考えていました。
当初は大阪市内への進出は考えていませんでしたが、淀川区まちづくりセンターの井川さんのお話を聞き、大西会長の熱意に触れ、「これだけの熱量をもった方々とならチャレンジする価値がある」という想いで臨みました。
移動店舗
買いものが不便な地域を決まった曜日・時間に巡回するトラックの店舗。肉や魚、野菜などの生鮮品、パンや総菜、菓子、冷凍食品、調味料などの食料品を中心に、家庭用品を加えた品ぞろえでお買物をサポートします。
藤原さん
正直、移動店舗は採算ベースに乗せることがとても難しい事業です。トラックの購入や維持、運転手の手配など多額の人件費、物件費がかかる割に利益が出ず、現在、移動店舗全体の収支状況は赤字であり「持続可能な事業」にするために黒字化が急がれています。
その一方で「いくら利益が出るか」という視点ではなく「どれだけ地域に貢献出来るか」という視点もコープこうべの存在価値だと思っています。
その両方を満たす答えは「来店客数」にあると思っています。
来店客数が多いということは「地域に必要とされている」のでたくさんのご利用があり結果として採算ベースに近づき、逆に客数が少ないということは「必要とされていない」ので結果として採算ベースから遠ざかります。
要するに「来店客数は地域からの支持率」ということです。
それを踏まえたうえで加島地域での活動を決めた理由が次の通りです。
たとえばコープこうべがいきなり乗り込んだとして「どこかの企業が何かやっている」くらいでしかありません。
このように「地域の声を具現化する」というプロセスにおいて一つひとつの団体が個々では難しいことも「地域」「行政」「企業」が三位一体となり「それぞれが得意な分野を出し合い協働して実現する」と考えていましたので、「加島地域ではその形が可能かもしれない」と予感したからです。
実際に、淀川区まちづくりセンターの井川さんには、広報支援や市の都市整備局からの市営住宅内移動販売使用許可を得る為に区役所へ掛け合っていただきました。
加島地域の大西会長は、町会長のみなさんに周知や協力の働きかけ、アンケートの実施、移動店舗のチラシを配布、自転車での現場巡回やヒアリング、広場や集合住宅入口のゲートを開け閉めしていただくなど、コープこうべだけではできなかったことを協力して運営することができています。
そのおかげで移動店舗では毎週楽しみにやって来てくれる方が増え、会話を通し個々に必要な商品をしっかり準備(個人最適化)することで、個々のニーズに応えています。そして「いつもありがとう、来週もきてな」と言ってもらった時、達成感や充足感を味わうことができています。
今後、もっと地域に根ざした活動となるよう、コープ商品の試食会などを地域と一緒に企画しながら「和」を広げ「事業それ自体が社会貢献」となるようにがんばります。
市営住宅の広場にて
おばあさんの買い物カゴを持ってまるでコンシェルジュのようなコープの柏木さん
大西会長 ある時の移動店舗で、市営住宅に住むご高齢の方が「色々買いたいけど、いっぱい買ったら持って上がるの大変やから」と言われたのを隣にいた奥さんが聞き、「持って行ってあげるよ」と一緒に階段を上って行かれました。
私は「買い物の便が良くなったらええわ」と思ってたけど、この光景を見て勉強させてもらいました。何気なくお手伝いできること、ほんまのところ、これが地域に求められてることやと気づきました。そういう社会にせなアカンと思ってます。
井川支援員 大西会長は現役の頃、労働組合執行委員長を20有余年を務め、男女平等や労働環境の向上など会社との労働条件交渉に取り組んでこられました。社員やその家族を思うように、今は地活の会長として加島の地域住民のことを思われているように感じます。
会長のパワーと行動力には圧倒されるばかりです。会長に頼りにしてもらえて有難いですが、地域の困りごと解決に向けてどれだけ支援できるか、毎回プレッシャーでもあります。一つひとつの課題に、きちんと対応する。築いた信頼関係を大切にしていきたいと思います。
左から、大西会長、井川支援員、コープ藤原さん
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